「うちが考えた名前だから大丈夫」が危ない理由 ―商標をめぐって3年争った実例から

漫画のように、

「この商品名は、うちが考えたんだから大丈夫」

「取引先も知っているから、わざわざ商標登録しなくても問題ない」

そう考えている会社は、意外と多いのではないでしょうか。

反対に、

「商標登録したのはこちらだから、相手に使うなと言えるはず」

と思うのも、自然なことかもしれません。

ところが、どちらも必ずしも正しくありません。

2026年9月9日、知的財産高等裁判所で、商標権を持つ側が商品の使用差止めと約4億1742万円の損害賠償を求めたものの、請求が認められなかった判決が出ました。

理由は、商標権の行使が「権利の濫用」にあたるというものでした。

商標登録はある。

それでも、その権利を行使できない場合がある。

中小企業にとって、商標と契約の重要性を考えるうえで、とても参考になる事案です。

■ 何が起きたのか

争いになったのは、業務用生ごみ処理機の「ゴミサー」という商品名です。

この商品名を発案したのは、商品を開発したメーカー側でした。

一方、訴えを起こした側は、そのメーカーの商品を販売していた販売代理店です。

メーカー側は、もともと「ゴミサー」について商標権を持っていました。

ところが、その商標権が消滅した後、販売代理店側がメーカーの承諾を得ることなく「ゴミサー」を商標出願し、登録を取得しました。

そして、その商標権に基づいてメーカー側に、

「ゴミサーの使用をやめてほしい」

と求めるとともに、約4億1742万円の損害賠償を請求しました。

つまり、商品を開発し、その商品名を考えたメーカーが、後から商標登録を取得した販売代理店から、

「その商品名を使うな」

と言われたわけです。

■ 「商標登録したから絶対に勝てる」わけではない

商標権を持っているのは販売代理店側です。

それなら販売代理店側が勝つのではないか。

そう思われるかもしれません。

しかし、裁判所は、これまでの両社の関係や商品名が生まれた経緯などを踏まえ、商品名を発案したメーカー側には、その名称の使用を妨げられない「正当な利益」があると判断しました。

そして、販売代理店側による商標権の行使は「権利の濫用」にあたるとして、差止請求も損害賠償請求も認めませんでした。

ここで注意したいのは、

「商標登録があること」と「その商標権をどのように行使しても認められること」は同じではない

ということです。

商標登録を取れば、どんな経緯があっても相手の使用を止められる、というわけではありません。

■ では、自分で考えた商品名なら登録しなくてもいい?

ここで逆の誤解にも注意が必要です。

「裁判所がメーカーを守ってくれたのなら、自分たちで考えた商品名は商標登録しなくても大丈夫なのでは?」

そうではありません。

今回、メーカー側は結果的に商標権の行使を受けずに済みました。

しかし、最初の裁判からこの判決を得るまで約3年かかっています。

裁判には費用がかかります。

社長や担当者も資料を集め、弁護士・弁理士などと打合せをし、取引先への説明などにも時間を使うことになります。

商標をめぐる争いが3年間続くこと自体、中小企業にとっては大きな負担です。

裁判で争って最終的に請求を退けることと、最初からトラブルを起こさないことは、まったく別の話です。

しかも今回のメーカー側は、もともと「ゴミサー」について商標権を持っていたという事情があります。

何の登録もしていない会社が同じようなトラブルに巻き込まれた場合に、必ず同じ結論になるとは限りません。

■ 自社で開発した名前なら――先に出願する

漫画の8コマ目の左側です。

自社で考え、これから長く使っていこうという商品名やサービス名であれば、基本的には他人に取られる前に自社で商標出願しておくことを検討すべきです。

商品名は単なる「名前」ではありません。

広告を出し、営業を続け、顧客が増えていけば、その名前自体に信用やブランド価値が蓄積していきます。

会社が時間とお金をかけて育てていく資産です。

それなのに、その名前の権利関係だけが曖昧なまま、という会社は珍しくありません。

商品やサービスを市場に出した後ではなく、名前を決めた段階で商標を確認する。

これが一番シンプルな予防策です。

■ 共同開発・OEM・代理店販売なら――契約で決める

もう一つが、漫画8コマ目の右側です。

今回の事案のように、メーカーと販売代理店など複数の会社が一つの商品に関わっている場合には、商標登録だけではなく契約が重要になります。

共同開発、OEM、代理店販売などの契約を結ぶときには、少なくとも次の3点を確認しておきたいところです。

✓ 誰が商標を出願・保有する?

メーカーなのか、販売会社なのか。それとも別の会社なのか。まず権利の名義を明確にします。

✓ 誰が、どこまで使える?

商標権を持っていない会社にも、販売や広告のために商標を使わせる必要があります。誰が、どの商品について、どの範囲で使用できるのかを決めます。

✓ 契約終了後はどうする?

ここは特に重要です。

取引が終わった後も商標を使用できるのか。在庫商品は販売できるのか。広告、Webサイト、ドメイン名、SNSなどはどうするのか。

関係が良好なときには問題にならなかったことが、契約終了をきっかけに一気に問題になることがあります。

「長い付き合いだから大丈夫」

「お互い分かっているから、契約書にまで書かなくてもいい」

その前提は、会社同士の関係が変わった瞬間に崩れることがあります。

だからこそ、関係が良好なうちに決めておくことが大切です。

■ 商標は「問題が起きてから考える」では遅い

今回の事案から、中小企業の経営者にぜひ覚えておいていただきたいことがあります。

「うちが考えた名前だから大丈夫」ではありません。

そして、

「うちが商標登録したから絶対に勝てる」でもありません。

大切なのは、争いになったときに勝てるかどうかだけではありません。

そもそも争いを起こさない状態をつくっておくことです。

自社で開発した商品名なら、使用を始める前に商標を確認し、必要なら出願する。

共同開発・OEM・代理店販売など複数の会社が関係するなら、

「誰が出願・保有するのか」
「誰が、どこまで使えるのか」
「契約終了後はどうするのか」

を契約で決めておく。

商品名を決めたときが、商標と契約を確認するタイミングです。

すでに代理店や協力会社と一緒に商品を販売している場合でも、一度、商標の名義と契約内容を確認してみることをおすすめします。

「今、誰が権利を持っているのか」

「契約が終わったら、その名前は誰が使えるのか」

そこを整理するだけでも、将来のトラブルを減らすことができます。

商品名・サービス名の商標登録や、共同開発・OEM・代理店契約における商標の取扱いについて気になることがあれば、ご相談ください。

まず現在の権利関係を整理するところからお手伝いします。

参考判決
知的財産高等裁判所 令和8年(ネ)第10017号
2026年9月9日判決

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