〜デジタルデザインの保護範囲が広がる〜
1. デジタル時代の“デザイン資産”とは
アプリのUI、スマートウォッチの画面、メタバースのショップ空間――。
今、デザインの価値は「形あるモノ」だけに留まりません。
特にUI/UXデザインの世界では、操作性や画面遷移の滑らかさといった“体験そのもの”がブランドを形づくる要素になっています。
「このアイコンの配置、なんかA社っぽい」「この画面遷移、B社みたいだな」
――そんな印象の裏側には、細部まで計算されたデザイン設計があります。
こうした画面上のデザインも立派な“資産”。
そして近年、その保護を後押しするのが「意匠法」の拡充です。
2. 2019年改正以降の「画像意匠」「動的意匠」
2019年の意匠法改正では、デジタルデザインを守るための制度が大きく進化しました。
キーワードは「画像意匠」と「動的意匠」。
- 画像意匠:ボタンやアイコン、画面レイアウトなど、ディスプレイ上に表示される画像が対象
- 動的意匠:アニメーションのように「時間とともに変化するデザイン」も保護対象に
たとえば、スマホアプリで「読み込み中」に現れるアニメーション、あるいはスマートウォッチの通知表示なども登録可能になりました。
つまり、「ハードウェアに固定された形」だけでなく、ソフトウェアの世界に広がる表現までが意匠法の射程に入ってきたのです。
3. AIが作ったUIは登録できるのか?(創作者の関与が鍵)
さて、ここで気になるのが――
「AIが自動生成したUIデザインって、意匠登録できるの?」という点。
結論から言うと、「人が創作に関与していれば」登録の余地があります。
意匠法では、登録のために「創作性」が求められます。
つまり、AIが完全に自律的に作り出したものは、創作者(人間)がいないため登録は難しいのです。
一方で、
- AIに指示を与えて生成させた
- 生成結果を取捨選択・修正した
といった人の判断や工夫が関わっている場合には、意匠登録の可能性があります。
要するに、「AIは筆、デザイナーは絵描き」。
AIがいくら巧みに絵を描いても、その使い方を決めたのが人なら、その人が創作者という考え方です。
4. 出願時の工夫:静止画+動画説明で動きを伝える
動的意匠の場合、出願の際には「動きをどう表現するか」がポイントになります。
たとえばアプリのボタンが押されるときのアニメーションを意匠登録したい場合、
- 複数枚の静止画を連続して提出(動きの前後を示す)
- 併せて「動作説明書」で動きの流れを言葉で補足
といった形で「時間変化のデザイン」を伝えることができます。
特にUIアニメーションやメタバース空間の演出では、この「動きの見せ方」が登録の成否を分けることもあります。
5. 先行事例:スマホUI・ウェアラブルデバイスの意匠登録例
実際に登録された例としては、以下のようなものがあります。
- スマートフォンのロック解除のアニメーション
- ナビゲーションアプリの経路案内の画像デザイン
- スマートウォッチの心拍数によって変化するアイコン
これらは「画像意匠」「動的意匠」として、既に登録実績があり、
今後はメタバース内のインタフェースや3D空間内の操作UIも保護対象として注目されています。
つまり、これまで著作権では守りづらかった“操作感や動きの印象”まで、
意匠で守れる時代になってきたのです。
6. AI×デザインを守るには「創作プロセス」を残す
AIが生み出すデザインは、確かに便利でスピーディー。
でも、「誰が、どんな指示を出し、どう仕上げたか」というプロセスが見えなければ、法的に守りにくいのも事実です。
意匠登録を目指すなら、
- AIツールの利用ログやプロンプト(指示内容)
- デザイン修正の履歴や検討メモ
といった創作プロセスの記録をしっかり残しておくことが大切です。
これからのデザイン保護は、
「AIを使わない」か「AIを使うか」ではなく、
“AIをどう使って創作したか”を証明できるかがポイントになります。
デジタルデザインがますます多様化する今、
AI×意匠の組み合わせは、あなたのクリエイティブを守る新しい武器になるはずです。
さわべ特許事務所
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